フィッティング処方式 NAL-NL2について
補聴器は、難聴者に対応する機械です。しかし、難聴と一言で言っても、様々な症状があります。高い音が聞きづらい人もいれば、低い音が聞きづらい人もいます。また、会議の会話だけ聞き取れない人もいれば、大声でも聞き取れない人もいます。このように一人ひとりの聞こえの違いに対応するために、補聴器には調整作業、つまりフィッティングが必要になります。
フィッティングの重要な行程の一つが、補聴器の利得の調整です。非常に重要でありながら、専門的な知識や経験を要する困難な作業です。
そこで、フィッティングの研究チームによって、装用者の聴力データや年齢などの情報を元に、聞こえの改善にふさわしい利得設定を計算する「フィッティング処方式」という計算式が開発されています。
フィッティング処方式は、研究機関や補聴器メーカーによって開発されていますが、世界的に有名な処方式は”DSL m[i/o]”と”NAL-NL2”の2種類です。
この記事では、NAL-NL2について解説します。
”NAL-NL2”に関しては、「フィッティング処方式 DSL m[i/o]について」を読んでみてください。
NAL-NL2とは?
NAL-NL2は、NALというオーストラリアの研究機関で開発されたフィッティング処方式です。
NALでは、最初に“NAL”というフィッティング処方式が開発され、“NL”とはノンリニア(Non Linear)の略称です。
つまり、“NAL-NL2”とはノンリニア用に開発された2番目の処方式ということです。
NAL-NL2の利得設定
NAL-NL2は、次の2点を満たすような利得設定が考えられています。
- 健聴者のラウドネスを越えない
ラウドネスとは音の大きさについての感覚レベル、つまり「騒がしさ」です。
つまり、健聴者が普通だと感じる音を、うるさく聞こえる設定にしないようにしている、ということです。
- 音声の明瞭度が最大になるようにする
補聴器の利得設定と、装用者の聴力データから、音声の明瞭度を推定する計算式を用いて、音声ができる限り聞き取りやすくなるような設定を選択しています。
個人的な印象では、DSL系よりは小さい利得になっていた、バランスの良い利得設定になっていると感じます。
NAL-NL1からの改良点
NAL-NL2の利得設定に関する考え方は、以前のバージョンである“NAL-NL1”から変わっていません。
NAL-NL2での代表的な改良点を紹介します。
- 明瞭度の算出式の改善
NAL-NL2の利得設定に用いる明瞭度を推定する計算式を、より推定が高精度になるように改善されています。
- 性別の違いを反映
男性の方が大きい音を好むという聴取実験の結果を反映しています。
- 装用経験の違いを反映
補聴器の初心者より装用経験者の方が大きな音を好むという聴取実験の結果を反映しています。
参考ページ
NAL-NL2の論文:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4627149/